この空の下
「私自身随分迷っていました。あのまま隆哉と結婚することでも十分幸せになれると思えた。でも、ピアニストの夢は諦められなかった。だから、逃げ出したんです」

なるほど。


「でもね、人間って不思議なものでなくしてしまうと未練が出るんです。フランスで必死になってレッスンして、やっと食べられるようになったら隆哉が恋しくなってしまった。パーティーの時も遠縁の叔父に無理矢理お願いして演奏させてもらいました。どんなことをしても隆哉に近づきたかった」

「そんなことしなくても、電話したりマンションに来れば良かったじゃない」


わざわざ回りくどいことをしなくてもって意味で言ったのに、


「私が逃げ出したことで、一番怒っているのは隆哉です。電話になんて出るはずないし、尋ねて行っても目もあわせてくれません」


「そうだったの」

確かに、隆哉さんの性格を考えればありがち。


「みんなが見ているパーティーの会場だったから、ちゃんと話してくれたんです」



「で、気持ちは伝わったの?」

「どうでしょう。毎日辛そうな顔をしています」


まだ、許しきれないのかもね。
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