この空の下
「ねえ、隆哉。紅茶飲む?」

今日も彩葉が声をかける。


いきなり現れた彩葉に怒っていたはずなのに、いつの間にか側にいることに対する違和感がなくなってしまった。

3年も空白の時間があるのを時々忘れそうになる。


「自分でコーヒーを入れるからいいよ」


「するわよ」

「いいんだ」


そのくらい自分でできる。

3年も自炊をしているんだ。

コーヒー1つとってもこだわりや好みがある。

自分の入れたほうが、落ち着く。


考えてみれば、コーヒーだけじゃない。

昔から人に手を出されるのが嫌いだった。


そう言えば、彼女が俺のことを『潔癖なの?』って訊いたけれど、

確かにその傾向はある。


今はこうして彩葉が一緒にいるが、それまでこの部屋に入れたのは彼女が初めてだった。


まあ、あのドロドロの状態では放って置くわけにもいかず仕方なくではあったが。


まさか酔っ払った女を介抱したり、汚れた服の片付けまでするとは、

俺が一番驚いた。
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