この空の下
不思議そうな顔をした私に、吉川さんは説明しだした。


「この前飲んだとき、隆哉に呼び出されたでしょう?」

「ええ」


忘れもしない最悪の記憶。


「あの時、俺とあなたを見かけた奴が隆哉に知らせたらしいんだ。『お前んとこの女医さんが吉川の息子と飲んでるぞ』ってね」

「へえー」


そんな余計なことをわざわざ言う人もいるのね。

最初からどこにいるか分かっていて電話してきたんだから、隆哉さんが来るのも早かったわけだ。



「実はあの後、隆哉に文句を言われたんだ。『もう少し気を遣え。あんな近所で、人が集まるところに行けば噂になるって考えれば分かることだろう』ってね」


確かに、あそこは街の若者なら誰でも知っている店。

目立つと言えば、目立っていたのかもしれない。
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