この空の下
「母さん、私ね赤ちゃんができたの」

なぜだろう気がついたら口にしていた。

まだ誰にも言っていない秘密。


「男の子がいいわ」

「えっ」

驚いて聞き返してしまった。


「男の子は跡取りだから」

うつろな瞳をしたまま、母はそう言った。


もしかしたら母自身が言われ続けてきた言葉なのかもしれない。

「そうね男の子だったらいいわね」

私も笑顔で返した。


次の瞬間母の目から大粒の涙がこぼれた。

「母さん」

きっと母は母なりに苦労をしてきたんだろう。

人生に振り回されたかわいそうな人だと、大人になった今は思える。
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