この空の下
「どなたですか?」
気になって尋ねてしまった。

「患者さんのお母さんよ」
「2人とも?」
「違う違う。えーっと、はじめに入ってきたのが子供の頃から診てもらっている私の主治医」

「ドクターですか?」
「そうよ、かわいいでしょ。怒らせると怖いんだけどね」
「へー」
「旦那さんは東邦大の消化器科部長よ」

えっ。
「森先生?」

「そう」

へー。
森先生と言えば、有名な消化器科医。
内視鏡の腕も抜群だし、人当たりも温厚で、医者の鏡みたいな人だと聞いたことがある。

あの人が奥さん。

「随分年が離れてるんですね」

森先生って、たしか50代だもんね。

「桜子先生の指導医だったらしいから、10歳位離れてるわね」
「ふーん」
随分若く見えた。

で、
「今日はどうして?」

「ほら、もう1人の凄い美人さんの方が患者のお母さんなの」

えええ、お母さん?

「10代の妊婦ですか?」
「違うわよ。ああ見えて50代」
「へー」
綺麗な人って特ね。


「羽蘭、どうぞ」
ちょうど悠平先輩に呼ばれ、私は診察室に向かった。
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