この空の下
いつの間にか運ばれてきたコーヒーとケーキ。
空と麗子さんがベットに腰掛けて、私達はソファーとイスに座った。
「優子ちゃんも大人になったわね」
桜子先生が感慨深げ。
優子ちゃんって・・・
「そんなに小さい頃から知ってるんですか?」
「そうよ。羽蘭は、私が小さい頃腎臓が悪かったって知ってるでしょ?」
「ええ」
中学時代に移植を受けたって聞いている。
私が出会った頃にはすっかり元気だったけれど、小さい頃は病院にいることの方が多かったらしい。
「運動にも水分や食事の摂取にも制限があったから、大人達は『かわいそうに』ってとにかく甘やかしたのよ。お陰で私もわがままになっていてね」
恥ずかしそうに顔を赤くする優子先輩。
「ほんと、あの頃の優子ちゃんは無敵だったわよ」
桜子先生のイタズラっぽい顔。
「やめてください。子供の頃の話しですから」
「そうね」
普段の優子先輩からは想像もできない話に、私も空も興味津々で優子先輩を見た。
「あの頃は自分が一番かわいそうな子で、大人は何でも言うことをきいてくれると思っていたわ。動かせない体がもどかしくて母さんにあたったり、看護婦さんの言うことをきかないで逃げ出したり。気にいらないと、食事をわざと落としてみたりしてね」
「最低ですね」
確かに。
「それでも大人は叱らなかった。だから余計に反抗して」
へー。
叱れない気持ちも分からなくはない。
病気で苦しむ子供なら少しくらいのわがまま聞いてあげようと思ってしまうもの。
「その時ね、桜子先生が来たの。ベットの上で布団をかぶっている私に『どうしたの?』って聞くから、『食べたくない』って答えたの。そうしたら『じゃあ食事はもう出さないから、明日からは薬と点滴だけにしなさい』って言うのよ。それでもどうせ、明日になれば食事が来るんだろうって思っていたら、本当に来ないの。文句を言おうとしたらいつもの倍以上の量の薬と点滴を持った桜子先生が現れて驚いたわ」
「それでどうしたんですか?」
「意固地な私は素直に謝れなくてね。こっそり売店へ買い物に行ったところを見つかって、凄い顔して叱られた。怖かったわよ。でもね、そんな風に叱ってくれるのは先生が初めてで、なんだか嬉しかったの」
へー。
優子先輩の意外な一面。
「そのことで私は上司に目茶苦茶叱られたんだから。『お前は親か?保育士か?子育てしたいなら医者をやめろ』ってね」
ウワ、怖い。
「まあ確かに、病気の患者の食事を止めるってやって良いことじゃあないですよね」
空の意見。
うーん、私には桜子先生の気持ちが理解できるけれど。
やっぱり小児科って難しいのね。
「あのー」
医者としてなんて高尚なことを考えていた私に、麗子さんが遠慮気味に口を挟んだ。
「それってパパですか?」
はあ?
意味が分からず視線を送ると、
「その、『医者をやめろ』って言ったのは・・・パパですよね?」
「そうよ」
と桜子先生。
ハテナがいくつか浮かびそうになった私に、
「麗子さんのお父さんも小児科のドクターなのよ。今は東邦大の小児科部長」
優子先輩が説明してくれた。
「そうなんですか」
東邦大の桜井小児科部長。
新生児医療の分野では有名な人よね。
麗子さんがそのお嬢さんだったんだ。
「桜子さんの紹介でここを知ったんですよ。麗子もここが気にって出産を決めました」
と、お母さん。
なるほど、そういうことか。
どうして空の実家ではなくてわざわざクリニックで出産したんだろうと思っていた。
「まさか、空の子供だとは思わなかったけれどね」
「僕も先輩の所で生みたいって言われて驚きました」
笑いながら、でも毒を吐く空と優子先輩。
相変わらず良いコンビね。
空と麗子さんがベットに腰掛けて、私達はソファーとイスに座った。
「優子ちゃんも大人になったわね」
桜子先生が感慨深げ。
優子ちゃんって・・・
「そんなに小さい頃から知ってるんですか?」
「そうよ。羽蘭は、私が小さい頃腎臓が悪かったって知ってるでしょ?」
「ええ」
中学時代に移植を受けたって聞いている。
私が出会った頃にはすっかり元気だったけれど、小さい頃は病院にいることの方が多かったらしい。
「運動にも水分や食事の摂取にも制限があったから、大人達は『かわいそうに』ってとにかく甘やかしたのよ。お陰で私もわがままになっていてね」
恥ずかしそうに顔を赤くする優子先輩。
「ほんと、あの頃の優子ちゃんは無敵だったわよ」
桜子先生のイタズラっぽい顔。
「やめてください。子供の頃の話しですから」
「そうね」
普段の優子先輩からは想像もできない話に、私も空も興味津々で優子先輩を見た。
「あの頃は自分が一番かわいそうな子で、大人は何でも言うことをきいてくれると思っていたわ。動かせない体がもどかしくて母さんにあたったり、看護婦さんの言うことをきかないで逃げ出したり。気にいらないと、食事をわざと落としてみたりしてね」
「最低ですね」
確かに。
「それでも大人は叱らなかった。だから余計に反抗して」
へー。
叱れない気持ちも分からなくはない。
病気で苦しむ子供なら少しくらいのわがまま聞いてあげようと思ってしまうもの。
「その時ね、桜子先生が来たの。ベットの上で布団をかぶっている私に『どうしたの?』って聞くから、『食べたくない』って答えたの。そうしたら『じゃあ食事はもう出さないから、明日からは薬と点滴だけにしなさい』って言うのよ。それでもどうせ、明日になれば食事が来るんだろうって思っていたら、本当に来ないの。文句を言おうとしたらいつもの倍以上の量の薬と点滴を持った桜子先生が現れて驚いたわ」
「それでどうしたんですか?」
「意固地な私は素直に謝れなくてね。こっそり売店へ買い物に行ったところを見つかって、凄い顔して叱られた。怖かったわよ。でもね、そんな風に叱ってくれるのは先生が初めてで、なんだか嬉しかったの」
へー。
優子先輩の意外な一面。
「そのことで私は上司に目茶苦茶叱られたんだから。『お前は親か?保育士か?子育てしたいなら医者をやめろ』ってね」
ウワ、怖い。
「まあ確かに、病気の患者の食事を止めるってやって良いことじゃあないですよね」
空の意見。
うーん、私には桜子先生の気持ちが理解できるけれど。
やっぱり小児科って難しいのね。
「あのー」
医者としてなんて高尚なことを考えていた私に、麗子さんが遠慮気味に口を挟んだ。
「それってパパですか?」
はあ?
意味が分からず視線を送ると、
「その、『医者をやめろ』って言ったのは・・・パパですよね?」
「そうよ」
と桜子先生。
ハテナがいくつか浮かびそうになった私に、
「麗子さんのお父さんも小児科のドクターなのよ。今は東邦大の小児科部長」
優子先輩が説明してくれた。
「そうなんですか」
東邦大の桜井小児科部長。
新生児医療の分野では有名な人よね。
麗子さんがそのお嬢さんだったんだ。
「桜子さんの紹介でここを知ったんですよ。麗子もここが気にって出産を決めました」
と、お母さん。
なるほど、そういうことか。
どうして空の実家ではなくてわざわざクリニックで出産したんだろうと思っていた。
「まさか、空の子供だとは思わなかったけれどね」
「僕も先輩の所で生みたいって言われて驚きました」
笑いながら、でも毒を吐く空と優子先輩。
相変わらず良いコンビね。