この空の下
かわいい赤ちゃんを囲んで1時間ほど和やかに過ごした。
隆哉も空も麗子さんもみんな笑顔で幸せな気分。
これも皆赤ちゃんが運んできてくれたのかもしれない。
「羽蘭さん」
病室を出てお手洗いに向かっているときに声を掛けられた。
「はい」
返事をして振り向くと、声の主は麗子さんのお母さん。
「少しお話しできませんか?」
「え、ええ」
ホールの一角。
窓際のベンチシート。
私は宝さんと並んで外を見ていた。
「羽蘭さんて素敵な名前ね」
「えっ?」
突然の話しの流れに、驚いた。
「かわいい名前だなと思って」
はあぁ。
「おばあちゃんがつけたんだそうです」
もうすこし普通の名前をつけてくれればよかったのに。
「羽蘭さんは、自分の名前が嫌いなの?」
「はい」
こんなこと言うと隆哉に怒られそうだけれど、好きにはなれない。
「放射性物質みたいだって虐められてきましたから。残念ながら一人っ子の私にはアトムお兄ちゃんが助けに来てくれることもありませんでしたし」
投げやりに言ってしまった私にたいして、宝さんは寂しそうな顔になった。
「羽蘭さん。間違っていたらごめんなさい。もしかして、旧姓は野崎さん?」
え、ええ?
野崎は父の性。
それを知っているってことは・・・
私は宝さんを凝視してしまった。
「ど、どうして・・・」
2人とも黙り込んでしまった。
「私ね」
長い沈黙の後、宝さんが話し始めた。
「麗子の前に男の子を授かったの。今の主人との間にではなくて、最初の夫との間にね」
「・・・」
何の相づちも打てず、真っ直ぐ宝さんを見つめる。
「かわいい子だったのよ。大切に大切に育てた。でもね」
言葉を詰まらせ下を向く。
「宝さん?」
あまりに長い沈黙に、声をかけてしまった。
「息子は・・・5歳の時に病気になって、あっという間に亡くなったの」
「・・・」
怖くて次の言葉が出てこない。
きっと、宝さんはお兄ちゃんのお母さんで、お父さんお最初の奥さんで・・・・
ヤダ、頭が混乱して追いつかない。
いつの間にか、私の体はガタガタと震えていた。
「ごめんなさいね、突然こんな話をして」
そう言って、宝さんが私をギュッと抱きしめた。
物心ついてから私は母に抱きしめられたことはない。
そんなものだと思って生きてきた。
寂しいと思った事もなかった。
でも、
宝さんから伝わってくるぬくもりは優しくて、温かい。
「ごめんなさいね」
何度も口にする宝さん。
「いいんです。誰のせいでもありません。それに、私は今幸せなんです。そう思わせてくれたのは隆哉です。頑張って良い親になります」
「羽蘭さん」
宝さんは涙ぐんでいた。
これは決して強がりではない。
素直な気持ち。
「ありがとうございます」
宝さんから離れて、お礼を言った。
「こちらこそ。お幸せに」
宝さんは素敵な女性。
私から見てもカッコイイ。
きっと色んな苦労をしてきたんだろうけれど・・・
こんな女性になりたいと思った。
隆哉も空も麗子さんもみんな笑顔で幸せな気分。
これも皆赤ちゃんが運んできてくれたのかもしれない。
「羽蘭さん」
病室を出てお手洗いに向かっているときに声を掛けられた。
「はい」
返事をして振り向くと、声の主は麗子さんのお母さん。
「少しお話しできませんか?」
「え、ええ」
ホールの一角。
窓際のベンチシート。
私は宝さんと並んで外を見ていた。
「羽蘭さんて素敵な名前ね」
「えっ?」
突然の話しの流れに、驚いた。
「かわいい名前だなと思って」
はあぁ。
「おばあちゃんがつけたんだそうです」
もうすこし普通の名前をつけてくれればよかったのに。
「羽蘭さんは、自分の名前が嫌いなの?」
「はい」
こんなこと言うと隆哉に怒られそうだけれど、好きにはなれない。
「放射性物質みたいだって虐められてきましたから。残念ながら一人っ子の私にはアトムお兄ちゃんが助けに来てくれることもありませんでしたし」
投げやりに言ってしまった私にたいして、宝さんは寂しそうな顔になった。
「羽蘭さん。間違っていたらごめんなさい。もしかして、旧姓は野崎さん?」
え、ええ?
野崎は父の性。
それを知っているってことは・・・
私は宝さんを凝視してしまった。
「ど、どうして・・・」
2人とも黙り込んでしまった。
「私ね」
長い沈黙の後、宝さんが話し始めた。
「麗子の前に男の子を授かったの。今の主人との間にではなくて、最初の夫との間にね」
「・・・」
何の相づちも打てず、真っ直ぐ宝さんを見つめる。
「かわいい子だったのよ。大切に大切に育てた。でもね」
言葉を詰まらせ下を向く。
「宝さん?」
あまりに長い沈黙に、声をかけてしまった。
「息子は・・・5歳の時に病気になって、あっという間に亡くなったの」
「・・・」
怖くて次の言葉が出てこない。
きっと、宝さんはお兄ちゃんのお母さんで、お父さんお最初の奥さんで・・・・
ヤダ、頭が混乱して追いつかない。
いつの間にか、私の体はガタガタと震えていた。
「ごめんなさいね、突然こんな話をして」
そう言って、宝さんが私をギュッと抱きしめた。
物心ついてから私は母に抱きしめられたことはない。
そんなものだと思って生きてきた。
寂しいと思った事もなかった。
でも、
宝さんから伝わってくるぬくもりは優しくて、温かい。
「ごめんなさいね」
何度も口にする宝さん。
「いいんです。誰のせいでもありません。それに、私は今幸せなんです。そう思わせてくれたのは隆哉です。頑張って良い親になります」
「羽蘭さん」
宝さんは涙ぐんでいた。
これは決して強がりではない。
素直な気持ち。
「ありがとうございます」
宝さんから離れて、お礼を言った。
「こちらこそ。お幸せに」
宝さんは素敵な女性。
私から見てもカッコイイ。
きっと色んな苦労をしてきたんだろうけれど・・・
こんな女性になりたいと思った。