この空の下
「君がいなくなると、御崎診療所は閉院になるからかな」

「はあ?」

どういう意味?


「元々採算がとれている病院じゃないんだ。父さんが大学病院に勤めながら、片手間でやっていたから。常勤の先生を呼んでくるだけの経費も出せないし、開ければ開けるだけ赤字になる。グループの経営陣からは閉めるように言われていた。そこへ君が来てくれた。かなり安い給料でも来てくれて、患者さんの評判も悪くない。君が最後の頼みの綱なんだ」

「なるほど」

そういうことでしたか。

病院存続のためなら、空とのことにまで協力しますって事。


「御崎診療所は父との思い出が詰まっているんだ。できれば閉めたくない。こんな感情論を持ち出すなんて、経営者としては失格だけどね」

自虐的に笑って見せた。


「素敵なお父様だったのね。正直利用されていたようでいい気分ではないけれど、とりあえずは協力します。と言うか、私自身今の仕事を失うと行くところがないので」


「じゃあ、お互いの利害が一致したって事かな」

「ええ」

診療所を守りたい隆哉さんと、何とか今の生活を守りたい私。

目的は同じ。

すでに関係を持ってしまってから言うことでもないけれど、割り切って付き合っていこう。

お互いに利用し利用され、結果として目的が達成するならそれでいい。



「ごちそうさま」

お味噌汁も卵焼きもご飯も、綺麗に平らげた隆哉さん。



何事もなかったかのように帰って行った。
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