【極上旦那様シリーズ】俺のそばにいろよ~御曹司と溺甘な政略結婚~
「今夜は心春の好きなすき焼きにしたの」
「ええっ? こんなに暑いのにすき焼きっ?」

 たしかにすき焼きは大好物だけど……。

「あら、食べるときはクーラーつけるわよ。デパートへ行ってA5ランクの和牛を買ってきたのよ」

 お母さんの実家は銀座で呉服屋を営み、お嬢さま育ちでおっとりした性格だ。
 
 呉服屋は、お母さんの五歳年上の兄が跡を継いでいる。

「そんなに高いお肉じゃなくてもいいのに」

 親元を離れて、お金の価値を学んだ。パリは物価が高くて、親から渡されたクレジットカードを自由に使えるものの、無駄遣いしないように気を付けるようになった。

「眠かったら横になっていなさい。すき焼きのお仕度しちゃうから」

 お母さんは弾んだ足取りでキッチンへ戻っていく。

「部屋に行ってるね」

 オレンジジュースを飲んでから、ドアの前に置いていたスーツケースを持ってリビングを出ると、二階の自分の部屋へ向かった。

 部屋の窓は開けられて、新鮮な空気を入れてくれていた。ベッドの端にポスンと腰を下ろすと、慣れ親しんだ我が家の柔軟剤の香りが鼻をくすぐる。

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