【極上旦那様シリーズ】俺のそばにいろよ~御曹司と溺甘な政略結婚~
「男に声をかけられても無視するんだからね? その長い黒髪に触れたいって思う男なんて数えきれないくらいいるんだから」

 ジュリアンの言う通り、私の黒髪は肩甲骨が隠れるくらいまであって、街を歩いているとまず艶のある髪を褒められる。

「もちろん。無視するから。それにいつも学校へはひとりで行っているんだよ? そんなに心配することないでしょ。行ってらっしゃい」

 そこへポーリンが兄を呼ぶ声が聞こえてきた。時刻は八時を過ぎたところだ。

「じゃあ、行ってくるよ」

 仕方ないとばかりにジュリアンは深いため息を漏らし、ドアから去っていった。

 ジュリアンの心配性は時にめんどくさくなる。

 梨沙に言わせれば、彼は私が大好きで、私がホームステイを始めた一カ月後には半年付き合っていた彼女と別れたくらい真剣らしい。

 ジュリアンは身長も高くてイケメンだけど、私には弟のようにしか思えない。休日の美術館巡りもひとりのほうが、気が楽だった。

 小さくため息をひとつ漏らし、アンティークのデスクの上に鏡を置いて、メイクを始める。

 八月の半ばから二週間、家族とニースでバカンスを過ごした。日焼けに気を付けていたから、色白の肌は保っている。

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