海の底にある夢【完】
「メリダさんメリダさん。エア・スミスについて何かわかりましたか」
「ミリーさんミリーさん。何もわからなかったわよ」
「何もですか」
「十七歳ということはわかったわ。あと、条件については知らなかったみたい」
「あらやだわメリダさん、そんなことあるわけないじゃないですかあ」
「私もそう思ったんだけどお」
お昼時、メリダはミリーという別の侍女と密会…もとい、休憩を取っていた。
侍女の食堂で向かい合ってランチを食べることだ。
相手のミリーはエアと同い年だがすでに結婚していた。
今日のランチメニューは、メリダはイカ墨のパスタで、ミリーはエビのクリームソースパスタだった。
ここ最近イカとエビの提供率が高いことは皆わかっているのだが、その理由は誰も知らなかった。
たまにカジキマグロのステーキも出てくる。
実はエアを釣り上げた船長と船員に対して口止め料として、正体を明かしたディレストが海産物を買う約束をしてしまったのだ。
イカとエビは凍結保存してあり、その残りを今も消費している。
カジキマグロが出た場合は今朝獲ったばかりの大物だということになり、目玉料理になる。
他には、タコ、ホタテ、ウニ、タイなど様々な種類の、やはり海鮮が最近のメニューの大部分を占めている。
「あらら、メリダさん口の周りが真っ黒ですよ」
「ミリーさんもピンク色でおしゃれなこと」
「え、どこについてますか、ここですか」
「違う逆」
二人は年こそ離れているものの、とても仲がいい。
ちなみにブレストのファンを束ねている二人でもある。
メリダは口元を紙ナプキンで拭きながらうーんと唸った。
「彼女は誰も好きにならないって言っていたわ。キリアス様の婚約者説もすっぱりと否定してたし、もっと仲良くなって話してもらえるようになるしかないわね」
「ですね。私もアタックして砕けてみます」
「砕けちゃダメよ。鋼にはダイヤモンドなんだから」
「鋼はエア・スミスですね。でも私、ミラーじゃないんですけど。七色に光りませんし」
「誰もそんなこと言ってないじゃないの」
そんな会話をされていたとは露知らず、当のエアは空をぼーっと眺めていた。
彼女はとっくに食べ終え、まどろみ中である。
場所は馬小屋の近くの木陰。
もしゃもしゃと草を食む馬の気配がするため、一人だがなんとなく一人だけではない、と感じるお気に入りの場所だ。
食堂は人がたくさんいるものの、独りだと感じてしまう。
独りぼっちにはどうしてもなりたくなかった。