海の底にある夢【完】
「メリダさんメリダさん、ちょっと聞いてくださいよ」
「ミリーさんミリーさん、奇遇ね、私も聞きたいことがあったのよ」
「ディレスト様とキリアス様が昨日、久しぶりに決闘していたみたいなんですがその理由は知っていますか?」
「それがね、私も知らないのよ」
変ねえ、と二人で首を傾げた。
目立つ男二人が不満をぶつけあった次の日、食堂にてこの噂好きの女二人はまたもや井戸端会議に熱中していた。
議題はもちろん、決闘と呼ばれている二人の喧嘩だ。
口喧嘩では手に負えないとき、ああして二人は決まって剣を交える。
大抵の事情は耳に入るのだが、今回はその原因を知る者がいない。
情報通のメリダでさえ知らないとなると、もはや誰も知らないのでは、と聞き耳を立てていた周囲の侍女たちはため息をついた。
「しかも結構白熱してたみたいで、練習場に騎士たちが戻っても決着がついていなかったらしいです」
「それは…大スクープね」
「事件の匂いがします」
「でも、これはもしかしたらお蔵入りかも…!」
それはいやー! と、周りの侍女たちも心の中で叫んだ。
そうして食堂が色めき立っていたころ、馬小屋の近くでエアはいつもの場所に鎮座していた。
しかし、今日はいつもと違った。
タイミングを見計らったかのようにディレストが颯爽と現れ、昨日と同じ文句で告げるとまた膝枕を要求された。
今回はタオルがないためじっと見られている視線を感じ、空を見上げることしかできずどことなく窮屈に感じた。
それになんとなくまだ彼がピリピリとしている気がするのだ。
「おまえはいつもここにいるのか」
「あ、はい…」
「ちゃんと昼、食べているのか?」
「食べました」
「何を?」
「今日は唐揚げです」
「昨日は?」
「エビのクリームソースパスタでした…あの、これはなんの尋問ですか?」
「尋問ではない。情報収集だ」
「なんの情報ですか?」
「おまえのに決まっているだろう」
昨日は窺うような優しさがあったのに、今日はなんだか意地悪だと思った。
矢継ぎ早に聞いてきてこちらの安息を邪魔してくる。
でも、お話をしていることを実感し嬉しい気持ちも少なからずあった。
「あのクソ眼鏡と決着がつかなくて俺は虫の居所がすこぶる悪い…八つ当たりなのはわかっているが、付き合ってくれると助かる」
「え、あ、大丈夫ですけど…」
「けど?」
「足が痺れそうです」
「そうか。それは悪かったな」
と、いきなり視界がぐるんと回り、なぜか今度はディレストに膝枕をしてもらう状況になった。
これにはさすがのエアも慌てふためく。