海の底にある夢【完】
『……死にたいか』
ふと、頭の中で声がした。
凛とした女性の声だった。
『おまえは死にたいのか』
(死にたい。お母さんの元に行きたい)
声に向かって彼女は答えた。
『ならばおまえの寿命をくれ。その代わり、一年だけ自由にしてやる。一年間は何をしても死ぬことはない』
(え…?)
彼女は困惑した。
今すぐに母親のところに行きたいというのに、この声は何を言っているのか。
『おまえの母親の意思だ。今もおまえの周囲を覆っている。我はその意思を汲み取ったまでだ』
(え? 待って!)
徐々に遠くなる声に焦り、引き留めようと彼女はうっすらと目を開けて必死に手を伸ばした。
しかしぼやける視界には影も映らず、手の形さえもわからないほど暗い海の底に彼女は落ちていく。
やがて、少女は息苦しさで意識を手放した。