海の底にある夢【完】
「エサは何を撒いたんだ?」
「雑魚のすり身です。それを巻貝の中に詰めて海に何個も沈めました」
「よく考えたな」
「ありがとうございます」
船長とそんなことも話した。
このように、実施に関する問題解決は現地の者に任せ、ディレストは草案を返信するだけに留めた。
自分たちで考え行動することに意味があり、実行の可能不可能は城からではわからない。
命令ではなく提案をすることで各地を導き、その報告書は後世まで残る。
その漁の報告書はキリアスがまとめたが、ディレストは少しだけ書き加えていた。
(エサを撒くと狙った獲物以外の生物も獲れてしまうため、いっそ養殖をしてもいいのではないか)
オルガノ王国では養殖が成功した例はまだ無いが、今後は検討してみてもいいかもしれない。
あのイカたちは恐らくエビに群がったのだろう。
食物連鎖も考慮しなければならない。
(エビでなくとも…俺はタイが食いたいかな)
今回は個人的な意見が載った報告書となった。
「ところで兄上」
「なんだ」
「なぜ半年間なのです? もう一か月ぐらいなら延ばせますけど」
いきなりお話が始まったな、と手を止めたブレストを見ながらエアは思った。
先ほどの業務連絡はお互いに顔を見ていなかったのに、今はブレストは手を止めディレストは書類から視線を上げている。
しかし兄は再び書類に目を通し始めた。
「延ばす気はない。半年後はちょうど乾期が終わる頃だ。また雨期になれば仕事が増える」
「冬は大丈夫だということですか?」
「三か月経てば冬が始まる。俺は各地の冬の郷土料理を食いたい気分なんだ」
「ああ、なるほど」
何がなるほどなんだろう、とその場にいたディレスト以外が思った。
冬って何かあったっけ、とメリダは想像した。
冬の方が乳製品が美味しくなるから…ミルク煮とか?
あとはジビエとか。
カキとか。
…あとはなんだろう。
「僕はサーモンが好きです」
「じゃあ鮭とばだな」
「僕はお酒飲めませんよ」
「今はな。帰って来る頃はもう成人だろ」
「確かに」
「アルコールに慣れておけよ」
「頑張ってみます」
そこで会話は途切れ、また仕事に専念する二人。
でもエアは内心首を傾げた。
(……お仕事の効率、悪くなってると思うんだけど)
ディレストは話をしていても書類を読んでいたようだが、ブレストの方は完全に手が止まっていた。
これでは効率の面では良いとは言えない。
(でもこの光景は新鮮かも)
と、一方でメリダとミリーは目を輝かせていた。