海の底にある夢【完】
「あ、ステンドグラスが見えます。海みたいですね」
「そうだな」
すでにディレストたちが通り過ぎた最初のステンドグラスに二人はたどり着いた。
下半分は砂浜で、上半分は青系の色で占められ中央に黄色い後光を放つ女性が浮かんでいる。
髪は白く、手にハープを持っていた。
彼女の周りには無数の魚がぐるぐると泳いでいる。
「なんだか楽しそうですね」
「ラティスの絵だろう」
「ラティス?」
「海の女神のことだ。まあ人間が勝手に作り出した神で本当にいるかは怪しいが、その物語をここではステンドグラスで表している。聞かせてやろうか?」
「ぜひお願いします。疲れが紛れそうです」
「……そうかよ」
彼女の間抜けな返事に苦笑したキリアスはエアに物語を話してあげた。
海の女神ラティスは手に持つハープを鳴らして海の生き物たちと楽しく会話をしていた。
しかしそのとき、大きなサメが乱入してきてラティスは連れ去られてしまう。
どこに向かっているのかと思っていると、どんどんと海底に向かっていることに気が付いた。
寒く暗い深海の中を進むサメとラティス。
やがてサメはある場所で止まり、ラティスを解放した。
そこには岩に足を挟んでしまい身動きが取れなくなっていた男がいた。
男も神の一人なのだが、力が弱く岩をどかすことができない。
彼を最初に見つけたのはそのサメなのだが、お互いに意志の疎通をはかることができず、ハープで全ての生き物と会話ができるラティスを連れてきてどうにかしてもらおうと思ったのだ。
しかし同族であった二人にハープは必要なく、男が深海で一人、ずっとここにいたことを知った彼女は哀れに思い、助けることを約束してサメを連れてまた浮上した。
彼女は必死にハープで呼びかけた。
(クジラさんクジラさん、どうかあの人を助けてあげて)
すると、一頭の真っ白な大きなクジラが現れた。
そのクジラはホワイトマザーといい、海を束ねる神の化身だった。
つまり、ラティスよりも位の高い神の臣下が彼女に力を貸してくれるというのである。
彼女は再び彼の元に戻り、ホワイトマザーによって岩はどけられ見事助けることができた。
すると、男は眩い光を放ったかと思うと容姿が変わり屈強な肉体を持った神に変身した。
実は彼が海を束ねる神、オケアテスだったのだ。
オケアテスは捕らえようとする人間からホワイトマザーを守ろうとし、怪我を追って海底に沈んでしまった。
その際、運悪く岩が落ちてきて足が挟まり身動きが取れなくなった。
怪我を治した影響で力が弱まりずっと海底でホワイトマザーの安否を心配していたのだが、力が弱まった自分を見つけることは困難だろうと諦めかけていた。
そこに運命の女神、ラティスが降臨したのである。
奇跡の出会いを果たした彼らは結ばれ、今も子供たちと海の安寧をずっと守っているという。