海の底にある夢【完】
「熱い……」
「リンゴみたいに赤いぞ」
「うう…」
改めて言われるとかなり恥ずかしいなこれ、と両手でエアは顔を覆って俯いた。
その様子を見て男二人は頬を緩める。
だがそれも一瞬のことで、レイダスはすぐに口角を戻した。
「それでですね、まあ海に沈んでしまったのは事実として置いておきまして、この近辺の海では時々クジラの歌が聞こえるそうなのです」
と、レイダスは先ほど音を立てたクジラ型のクッキーを地図上に置いた。
「クジラの歌?」
「はい。クジラやイルカは放つ超音波によって会話をしているのですが、たまに鳴き声で歌うときがあるそうです。私は聞いたことがありませんのでどう表現すればいいのかわかりませんが、クジラの声は管楽器のホルンのように低くて伸びる音だそうです。イルカは笛のようだそうです」
「それで?」
「毎回同じ曲調だと知り合いが言っておりまして…ああ、ホワイトマザーはご存知ですか? そのホワイトマザーの末裔が歌っているのではないか、と私は予測しているのですが」
「ホワイトマザーなら知っているが。オケアテスの臣下の白いクジラだろう」
「はい、その通りです。ではバッドエンドの方の話は聞いたことがおありでしょうか」
「オケアテスが罪人だというやつか」
それはあの時計塔の管理人から簡単に話を聞いた。
「そうです。ホワイトマザーが魚となった子供たちを誤って食べてしまうのですが、後で知ったホワイトマザーは嘆き悲しみます。そして、子孫たちに転生したラティスの子供たちに母親の居場所を教えるため、ラティスが子供たちに昔よく演奏していたハープの曲を歌い続けるようにさせたそうです。その歌をここにいるクジラたちが歌っているのではないか、というのが私の仮説です」
クジラのクッキーを指差すレイダス。
その指先をディレストは見つめ、その仮説はかなり有力なのではないか、と思った。
もしもその海域にラティスが閉じ込められているという神殿があるのであれば、エアの寿命を奪い不死身の体を与えた存在はやはりラティスということになる。
時計塔で物語を聞いたときも様子がおかしくなったのは、ラティスの記憶と混在したからではないのだろうか。
あまり考えを固めることはよくないが、今はそう思うばかりだった。
「では……私の寿命が奪われたにも関わらず生かされ、不死身の体にされたのはなぜだと考えているのですか」
今まで静かだったエアがいきなり話し出して、ディレストは驚いた。
彼女を見ると肩を僅かにいからせており、どことなくムキになっているような、怒っているような。
そんな表情をしていた。