対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
12.秋の風
恵巳が入ったメイクルームは、一つ一つの席に間仕切りがあり、プライベートな空間が演出されていた。
鏡もしっかり磨かれていて少しの曇りもなければ、反対側にある更衣室も1人には十分すぎるほどのスペースがある。
そんなどこを見ても高級感が強いメイクルームに設置された、眩しいくらいの洗面台でワンピースにかかった赤い染みを落とす。
「はぁ…」
グラスを持った女性の目を思い出す。あれは、故意におこなったもので間違いない。だから拡樹と距離をとった。あのまま一緒にいれば、拡樹にまで何かされるのではないかと恐れたのだ。
拡樹に相談すべきなのか、黙っておくべきなのか、またため息をついて、考えなくてもいいように黙ってブラウスを洗う。
「あー、いい気味だったわねー」
誰かが入ってきた。
曇りガラスの仕切りの向こう側から声が聞こえる。彼女たちは話に夢中で、先客がいることに気づいていないようだ。
「あの女、拡樹さんの隣からいなくなったし、もう戻ってこないんじゃないかしら」
「どう見たって庶民よね?変な気起こしてやり返して来たりしなければいけど」
「そんな心配いらないわよ。私たちは、あの女に身の程を教えてあげたのよ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いないわ」
入ってきたのは先ほどの3人。あまりの言われように、握りしめた拳に力が入る。
だが、ここで騒動を起こしてしまえば、彼女たちの思うつぼだと、ぐっと堪えた。
鏡もしっかり磨かれていて少しの曇りもなければ、反対側にある更衣室も1人には十分すぎるほどのスペースがある。
そんなどこを見ても高級感が強いメイクルームに設置された、眩しいくらいの洗面台でワンピースにかかった赤い染みを落とす。
「はぁ…」
グラスを持った女性の目を思い出す。あれは、故意におこなったもので間違いない。だから拡樹と距離をとった。あのまま一緒にいれば、拡樹にまで何かされるのではないかと恐れたのだ。
拡樹に相談すべきなのか、黙っておくべきなのか、またため息をついて、考えなくてもいいように黙ってブラウスを洗う。
「あー、いい気味だったわねー」
誰かが入ってきた。
曇りガラスの仕切りの向こう側から声が聞こえる。彼女たちは話に夢中で、先客がいることに気づいていないようだ。
「あの女、拡樹さんの隣からいなくなったし、もう戻ってこないんじゃないかしら」
「どう見たって庶民よね?変な気起こしてやり返して来たりしなければいけど」
「そんな心配いらないわよ。私たちは、あの女に身の程を教えてあげたのよ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いないわ」
入ってきたのは先ほどの3人。あまりの言われように、握りしめた拳に力が入る。
だが、ここで騒動を起こしてしまえば、彼女たちの思うつぼだと、ぐっと堪えた。