対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「は?婚約!?…どういうつもりなんだよ」

驚きの声をあげたのは連の方だった。だが、拡樹は少しも表情を変えることはなかった。その冷たい目は、どことなく父、泰造を彷彿とさせた。

「あなたには関係のないことです」

「関係ないことないだろ!」

このままではここで言い合いが勃発してしまいそうだった。聞いていられなくなった恵巳は、蓮の手を引いてその場を立ち去ろうとする。しかし、萌が2人の行く手をふさいだ。

「せっかくだから、うちのホテルのラウンジに行きませんか?ゆっくり花火も見えますし、お酒も飲めますよ。ね、良いでしょ、拡樹さん」

「僕はどちらでも。おふたりの都合もあると思いますし」

その言葉に目線を強くしたのは蓮だった。

「望むところだ。俺たちもついて行く」

「やまやん…!」

「ここで逃げたら悔しいだろ」

「何でも立ち向かえばいいってもんでもないでしょうよ」

そんな抵抗もむなしく、結局ラウンジまで来てしまった恵巳は落ち着くことなどできなかった。あの日抑え込んだもろもろの思いが、気を抜くと溢れてしまいそうだった。

同じ空間にいると、嫌でも拡樹の方に意識が向いてしまう。視線の端で2人が座っているソファを捉えると、そこには隙間なく距離を詰めて何かを話している姿が見えた。見なければよかったと後悔してももう遅い。胸の苦しみは大きくなるばかりだった。
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