対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
カウンター席の一番隅に座り、2人が視界に入らないようにした。

そんな拡樹の対面に座ったのは蓮だった。今にも殴り合いを始めそうな蓮と、そんな彼をじっと見つめる拡樹。カクテルの入ったグラスを優雅にテーブルに置く。

「お前、本当にこれでいいんだな?」

「何のことですか」

「とぼけんな。わかんねーわけねーだろ。

…お前がそういう態度なら、別にいいんだけど。これ以上恵巳に近づくな。最初からお前に渡すつもりなんてなかったし、そちらさんはそちらさんでどうぞお幸せに」

そう言って拡樹のグラスに入ったカクテルを飲み干すと、恵巳の隣に戻った。

「何話して来たの?」

「お幸せにって」

「バカじゃん」

「なんでだよ!バカって言った方がバカなんだからな」

「なにその小学生みたいな発言!」

「俺はいつまでも少年の心を持ってんだよ」

「いつまでも子どものままなんでしょ」

そんな言い合いで、この時だけはいつもの調子に戻っていた。少しだけ救われた気がしたのも確かだった。

「ありがとう」

「恵巳を守ることが、昔からの俺の役目だからな」

「そうだっけ?」

まだ拡樹の方を見ることはできないが、この場で笑えるまでに回復していた。他にもラウンジにいたカップルは、いつの間にかバルコニーに出払っている。
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