対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「私たちも外に行ってみましょうよ」

手を引かれて立ち上がる拡樹は、感情を覆い隠しているかのような表情。無意識にその姿を目で追ってしまう恵巳とは違い、拡樹は少しも気にする様子がない。そのことに、胸がチクリと痛んだ。

「俺らも行く?」

「せっかくだしね」

こうしてそれぞれバルコニーに出た4人。

ついに海の向こうで花火が上がった。寒い中で見上げる花火はまた格別だった。大きく花が開いたあとに破裂音が耳に届くと、バルコニーでも歓声が上がる。

遠くに見える海と眼下に広がる夜景、そして頭上の花火と湖に映る色鮮やかな幻想的な光の粒。胸に響く振動までも心地良い。

紙を靡かせる風は、ひんやりとした冷たさにのせてあの夏の記憶を連れてくる。

次の夏も一緒に見たいと言ったあの時は、たしかに幸せだったと思い出す。思い出したくもないのに、この景色は色鮮やかに記憶を刺激する。

咲いては散り、散っては咲くその儚さはあまりにも綺麗で誰も目が離せない。

そこにいる全員が空を見上げている中、恵巳はそっと向こうにいる拡樹を目で探した。少しくらい思い出してくれているんだろうかと期待してしまったのだ。そんな期待、裏切られることなどわかっていながら、それでも右を見た。

こちらを気にしていないのならそれはそれで、最後に目に焼き付けるのはちょうど良かった。

赤く、一際大きな花火があがった。その明かりに照らされた視線が交差した。

「…拡樹さん」

無意識のうちにその名前を口にしていた。小さな呟きは風に溶け、どこかへと流されていく。
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