対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
拡樹は隣にいる萌に何か耳打ちをすると、一緒について行こうとする女性を制止して、1人で中へと戻っていった。今なら話ができるチャンスだ。追いかけようかと思ったが、足がすくんで動かなかった。

「行って来いよ。ケリつけたいんだろ」

いつから気づいていたのか、蓮が声をかけてきた。背中を押され、覚悟も決まらぬままに拡樹を追いかけた。カウンターに戻ると、奥の方に拡樹の姿を見つけた。

「拡樹さん!」

「…なんでしょう」

言いたいことは山ほどあったが、言葉にならない。だから、拡樹に会ったらまず言わなければならないことを話すことにした。

「ごめんなさい。私、誤解していました。拡樹さんが父や私を騙して蔵の管理品を探ってるんだって。婚約も、拡樹さんが私に優しくしてくれたのも全部計画のためだったって。

でも、父はそんなこと聞かれたことないって。全て泰造さんのでまかせだったんですね。
拡樹さんは、適当な情報をお父様に流して、私たちを守ろうとしてくれていたんですよね」

真相を確かめるために父を問いただしたが、拡樹と蔵の保管品の話などしたことはないとのことだった。

交流館を守るためにそれっぽい情報を流していたのだが、そういった小細工は泰造には通用しなかった。欺こうとしたことが逆鱗に触れ、拡樹を小関家からは遠ざけたのだった。

全てを知ったのは、拡樹と連絡をとらなくなってからしばらく経ってからのこと。連絡しようと思っても通話ボタンを押せない日が続き、気が付くと季節が変わり、年も明けていた。

それでも、いつかまた会うことができたなら、ちゃんと謝ろうと心に決めていた。
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