対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「父を最後まで説得できなかった。恵巳さんに隠し事をしていたのは事実です。

聞きましたよ。交流館での企画、上手くいっているようですね。融資がなくても上手く回りだしたそうで安心しました。良かったじゃないですか」

「拡樹さんが力を貸してくれたからです。順調に客足も伸びてます。

でも…、安心、ですか?経営の件はなんとかなりましたが…。その他は何とも思わないんですか?」

その他、と濁した言い方をしたのは、あまりにも冷たい拡樹の表情に別人に話をしているような気分になったからだった。

「もう…、お互いに相手がいるじゃないですか。僕は高宮さんと結婚します。最後にお会いできてよかったです」

まるで仕事相手と業務の話でもしているようだった。それくらい、拡樹の敬語には棘がある。そうなると、恵巳も距離を置いて返すしかなくなった。自分の中でも、心が冷えていくのがわかった。

「私も、最後にお会いできてよかったです」

涙が溢れそうなのを必死にこらえてラウンジを飛び出した。
本当に終わったんだと、目の前で突き付けられた現実を受け止めるには時間がかかりそうだった。

裏切られたと思っていたのに、本当は拡樹を信じきれなかった自分に非があった。

また元の関係に戻りたいと思っても、こんな偶然の再会を待ってるだけでは遅すぎた。

もっと早くに拡樹と話していれば、結果は変わっていたのかもしれないと、後悔の分だけ階段を下りて行った。
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