対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「ほんっと、いつまでも若いカップルみたいなんだから」

「人生一度きりなのよ。愛する人と添い遂げられる幸せったらないじゃない」

「そうだぞ。拡樹君に会うかもしれないなんて不安は、長い一生にしたらほんの一瞬だ。気にするな」

フォローが下手すぎる父を殴りたくなる衝動を抑えながら、バッグを肩にかけた。

「うるさい!定例会の時間だから行ってくる!」

叫ぶように言うと、さっさと定例会へと出かけた。

「少し前の素直になれない恵巳に戻ったな」

「素敵な人が現れたら、また変われるわよ」

無理して抱擁したせいで、腰の痛みが増してきた父を支えながら、椅子に座らせる母。

こんな両親に振り回されてばかりの恵巳だが、実は理想の夫婦であったりもする。

いつまでも仲が良くて、言葉にしない信頼感がある。いつもありのままでいられる相手を見つけられるのは、すごく難しいことなんだと、最近痛感していた。

素直ではない恵巳は、決して口にはしないが。
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