対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「お父さん!何回言ったらわかるのよ!ほんっと言うこと聞かないんだから!」

「母親みたいなことを言うんじゃない。
やれやれ、これくらいしないとうちの娘は奥手だからな。誰に似たのか…」

「パパではないわよね。パパはすごく積極的で男らしかったもの」

「今も男らしいだろ?」

何度異を唱えたところで、浮かれている両親を前に議論の余地なし。

数日前に拡樹から連絡が来た恵巳は、その誘いを丁重に断っていた。それが、婚約を白紙に戻すための一番の近道だと思ったからだ。だから、多少心が痛むのに耐え、きっぱりと断った。というのに、拡樹とひそかに連絡を取り合っていた父がデートの予定を入れ、当日の朝に待ち合わせ場所だけを恵巳に伝えたのだった。

「なんでこんなことになってんのよ」

デート当日。乗り気ではないと言いながらも、女性らしさのある涼し気なワンピース姿ででかけようとしていた。

「あれで終わりって言うのもなんかすっきりしないから、最後に一回会うだけだから。会って、はっきり断ってくるの」

鏡を前に、自分に言い聞かせるかのように独り言をつぶやく。
普段は儚いヒールのある靴を履き、玄関で最後に身だしなみをチェックする。
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