対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
和歌は、誰かに宛てた手紙のようなものだったり、大会で詠まれた作品らしきものだったりと、実に存在があいまいなものたち。だが、ここにあるものは古今和歌集の原本ともいうべき存在。紛れもなく歴史的価値は高い。

「駄目だよ、ママ!譲るはずないだろ。
ずっと昔から小関家に受け継がれてきたものなんだから」

妻を溺愛している父も、さすがに同意はできなかった。そんな父の意見に恵巳も頷いた。

「そうよ。
さすがにネットオークションはやめて。シュールすぎる。それにねお母さん、歴史的価値があっても、商品的価値があるかっていうのはまた別の話で、売れるかどうかはわからない。それと…」

そう意見を述べたところで、恵巳は一呼吸置き、会議が始まってからずっと気になっていたことに言及した。

「これって経営方針を決める大事な会議だって言ってたよね?どうしてやまやんもいるの?」

3人家族の家族会議にスーツ姿の4人目が参加していた。
どうも、とぺこりと頭を下げたのは、鑑定士として交流館に出入りしている山田蓮。
恵巳とは高校時代の同級生で、皆からはやまやんというあだ名で親しまれている。

「お母さんが呼んだのよ。蓮君だって、交流館の運営には欠かせない人でしょ?蓮君もうちの交流館にあるものは売れないと思う?」

当たり前のように、そしてまるで家族の一員のように座っている連は、若者らしい軽い口調で話し始めた。


「一般人の買い手は厳しいかもですけど、その道の専門家やコアなファンをターゲットにすれば、そんなに難しい話でもないんじゃないですかね。

実際、そういう話が来てるんっすよね?日本歴史博物館の方から融資の申し出があったって噂、俺のところにまで流れてきてますよ。だけど、それを親父さんが断ってるって。本当に日本歴史博物館から融資をしてもらえるなら、良い話じゃないですか。何が気に食わないんですか?」


そんな融資の話など、父からも風の噂でもを聞いたことがなかった恵巳と母は、真相を確かめようと父を見る。
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