対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「せ、せっかくですから温泉にでも行きましょう!」

「混浴もありますよ」

「無理です。恥ずかしいじゃないですか」

「そうですか。じゃ、混浴に行きましょうか」

全く話を聞かない拡樹に、ふざけるなとビンタでもしてやとうと振りかざした手は、反射神経の良い拡樹にかわされて空を切った。本気で叩こうとしたつもりはなかったが、こうも簡単によけられてしまい、ムッとしていると、不意にその手を掴まれた。

「え…」

真面目でどこか色っぽい表情の拡樹がそこにいた。息がかかりそうなほどの距離に、何も考えられなくなる。

「今日は泊まりですよ?わかってますか?
あとでごねても、帰しませんからね」

「ごねませんよ」

「同じ旅館で」

「わかってます」

「同じ部屋で」

「はい」

「同じ布団で朝を迎える」

「だからわかってますって!」

勢いに任せてそう言い放ったが、拡樹のにやりと勝ち誇ったような笑顔を見て、ようやく自分の失態に気が付いた。
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