対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「布団は別々ですよ!」

「恵巳さんって、こういう駆け引きに弱いですよね。
さあ、温泉に行きましょう」

まだまだ言いたいことはあった恵巳だが、これ以上拡樹の相手をしていられないと呆れていたのはもちろん、何より温泉の誘惑には勝てなかった。

混浴に行こうとしつこく誘ってきた拡樹を何とかおさめ、無事、露天風呂に浸かることができた。温かいお湯に肩まで浸かると、全身から力が抜けるように疲れが取れていく。

「ふぅ、癒されるー」

このまま寝てしまいそうになるのを堪え、岩に身体を預ける。
脱力していくからだとは裏腹に、頭の中は混乱を極めていた。

「同じ部屋で寝るって、どうなのよ…。
わー!」

いずれ訪れる夜のことをあれこれ想像しては、顔が赤くなり、そんな火照りを隠すように、ブクブクと沈んでいった。
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