対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「ついつい長湯しっちゃったなー」
さっぱりした恵巳は、後ろで髪をまとめ、浴衣に身を包み、部屋へと続く廊下を歩いていた。
「あれ?あれあれあれ?」
すれ違った男性2人が戻ってきて恵巳の行く手をふさいだ。
茶髪にシルバーのネックレス、指にはドクロのリングが不敵に微笑んでいる。旅館の客なのかだろうか、見ず知らずの若い男性に身構える恵巳。
「お姉さんなかなか良い格好してるね。1人なら俺らと一緒に遊ばね?」
「部屋すぐそこだからさ。はい、行きましょー」
後ずさりするもすぐに壁際に追いやられ、強く掴まれた腕を引っ張られる。
「やめてください!ちょっと、離して!」
触れられた場所から嫌悪感が一気に広がる。
振り払おうとするが、男の力には敵わない。
「婚約者と来てるので!」
思わず口をついて出たのは拡樹の存在。ここで助けを求めたい相手は、他にいなかった。
だが、そんな言葉で怯む輩ではない。