対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「婚約者ー?そんなのどこにもいないじゃん」
このままでは本当にまずい。助けを求めながらじたばたしていると、恵巳を掴んでいる男の背中にペットボトルがぶつけられた。コロンコロンと床に転がる。
「いって。あ?なんだ、お前」
ようやく手を離された。顔を上げると、男たちの向こうに、浴衣を着た拡樹が立ってるのが見えた。その表情は見たことが無いほど敵意に満ちていて、殺気すらも漂わせている。その変貌っぷりに思わず息をのんだ。
「そんな手で彼女に触れないでください。声もかけないでください。迷惑です」
「はぁ?彼女の前で格好付けようってか?俺ら2人に勝てると思うなよ!」
1人が殴りかかると、その腕をかわして背後に回り込み、その背中を軽く押した。男は勢いをコントロールできず、無様に床に倒れこんだ。
もう1人が拡樹の隙をついて背中にとびかかろうとする。
「拡樹さん!」
恵巳の甲高い声が危機を知らせる。すかさず気配を察知した拡樹は、後ろから伸びてきた拳を背中を向けたままで受け止めると、体を前方にひねり、背負い投げた。宙に浮いた男の体はそのまま床に打ち付けられ、哀れにも転がっている。
「彼女を守るためなら、手加減はしませんよ。もう二度と彼女の前には現れないでください」
痛がる男たちに冷たく言い放つ。圧倒的な力の差を見せつけられた男たちは、よたよたと立ち上がるなり、すぐさま逃げて行った。