対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「そうだ、ちょっと外にでも行きません?もう日も暮れてますし、夜の温泉街も見てみたいです」

鼓動の速さまでも見抜かれてしまう気がした恵巳は、慌てて拡樹を誘い出し、2人は夜の温泉街へと繰り出した。

湯けむりでぼやけた街灯が穏やかに流れる川を照らす。この時間は、温泉宿の宿泊客が多く観光しており、浴衣を着たカップルが仲睦まじく歩く様子も見られる。

「夜はまた雰囲気が違いますね。いつまでも見ていられそう、わっ」

慣れない草履に石畳。夜道に足を躓かせた。転びそうになる恵巳を、すかさず支えた拡樹。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。…なんだか、助けてもらってばかりですね」

「そんなあなたが可愛くて仕方がないですよ。
また躓いてはいけませんので、僕の腕に掴まってください」

「え?でも…」

困惑した掌は、宙でぎゅっと握られている。
カップルなら当然のごとく行う腕を組んで外を歩くという行為をしてしまったら、いよいよ婚約を認めてしまったようで気が引けた。
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