対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
改めて時計を確認すると、21時少し前。

約束の時間は過ぎている。連絡もとくには来ていない。

だが、気持ちは全く冴えない。引っかかっているのは、最後に来た「それでも待っています」というメッセージ。

「違う。ちょっと寄り道するだけだから」

気が付けば、駅前の公園を目指して走っていた。水たまりも気にせず、息が苦しくなるのも無視して、人の波をかき分けて進んだ。

21時。約束の時間から3時間遅れで公園の前についた。目を走らせるが、ほとんど人はいない。急に雨に降られた人は皆、駅の中で雨宿りをしている。それなのに、ぽつんと、花壇の前で傘もささずに立ち尽くす男性。拡樹はただ雨に打たれていた。

「なんで…」

打ち付けてくる雨の音が変わったことに気が付いたのか、拡樹が視線を上げた。

「私、行けないって言ったじゃないですか」

それは今にも消えそうな声だったが、傘を打つ雨音を通り抜けて拡樹の耳には届いていた。

「でも、来てくれたじゃないですか」

「だって…、拡樹さんなら、本当に待ちかねないと思って…」

「はい、待ってました」

力なくそういうと、恵巳の腕の中に倒れこんだ。完全に脱力しきっていて、息遣いも荒くなっている。

「拡樹さん!?」

既に意識が朦朧としている。気になって雨に濡れた額に触れると、ものすごく熱を帯びていた。
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