対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
「…本当にないんですか?私との婚約、本当は迷惑なんじゃないですか?それとも、世間的に結婚はしておいて、こっそり他の女性と遊ぶつもりなんですか?
顔が良いからって、なんでもありですか!?」

「ま、待って。落着いてください。なんでそんな話になるんですか?僕は自分の意思で恵巳さんと婚約してますし、他の女性になんて興味ありませんよ。僕は恵巳さんしか見ていません。

何があったんですか?教えてください」

一体何が、ここまでのすれ違いを起しているのか。どんなに好きだという気持ちを表現したところで、原因にある問題を解消しないことには、自分の言葉にが何も意味がないような気がしていた。

そこに突き付けられた、赤い封筒。受け取るのを躊躇っていると、恵巳が封筒を開いて、中から写真を取り出した。ベットの上にばら撒かれた写真。そこに写っている光景に、拡樹は目を疑った。

「拡樹さんがモテるのはわかってます。私がこうして拡樹さんと一緒にいられるのも、婚約があるからで、その婚約も思惑があってのもの。他に女性がいても私に文句を言う筋合いはありません。

だけど、そんなこと面と向かって言われたら、さすがに立ち直れなくなってしまいます。だから、距離を置こうと思ったんです」

写真は、どう見たってホテルに向かう男女のように見える。その横顔は紛れもなく自分自身。

ようやく恵巳の怒りの理由がわかった。なぜ自分が避けられていたのかも。だが、同時に、切なさにも似た、黒い感情が生まれた。

怒りが強まる恵巳に、拡樹も慎重に、探っていくような表情に変わっていく。

「この写真を見せられて、僕が、何て言うと思ったんですか?恵巳さんの中の僕は、何て言ったんですか?

答えによっては、ここから出しません」

優しい口調ではあるが、その言葉は本気だった。
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