対立相手が婚約者。それって何かの冗談ですか?
その日、拡樹に直接営業をかけてきた女性がいた。事務を通してくれと、正規のルートを案内して対応したのだが、その夜偶然にも行きつけのバーでにその女性と出くわしてしまった。
その女性は、近くで上司も飲んでるから一緒に来ないかと巧みに拡樹を誘い出し、気が付けばホテルの前だったという。

「ホテルの中には入ってないし、この女性とは何もありません。2度とこういうことはしないように言いましたし、それ以降会ってもいません。
本当です。信じてください」

そんな話があるのかという気がしなくもない恵巳だったが、拡樹がそんなことをする人ではないことを、心の底では信じていた。

さらに拡樹は続けた。

「ですが、ホテルの前に連れて来られるまで気づかなかったのは僕の落ち度です。それに、期待を持たせてはいけないと思って、婚約者がいることも話しました。それが、きっぱり諦めてくれる方法だと思ったのですが、…逆効果でした。

おそらく、この写真を送ってきたのはこの女性か、その関係者でしょう…。不安にさせてごめんなさい」

そういうことか、と、腑に落ちた気がした。拡樹がモテるのは知っていると言ったのは自分だ。こういう仕掛け方をする女性がいても頷ける。決して許したくなどはないが。
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