拾ったワンコが王子を連れて来た

以前、恭子さんが日本を離れた時の話をしてくれた、あの時の稀一郎さんの淋しそうな顔が、私の頭をよぎった。

まさか…

恭子さんが帰って来たあの日も、久しぶりに会う二人は互いに見つめ合い、心通わせた恋人の様に優しく微笑み合っていた。

桜花崎さんの為に帰って来たんじゃなくて…
もしかして…稀一郎さんの為に帰ってきた…?
以前プロポーズした稀一郎さんの気持ちに応えるために…?

稀一郎さんも…
恭子さんへの気持ち…残ってた…
だから、私の部屋にも入って来なくなった?
だから…一緒に寝なくなったの?
稀一郎さんは…
今も恭子さんを想ってるから…?

そっか…
こんな綺麗で素敵な人を忘れる訳ないか…
少し考えれば分かった事なのに…
なんで、今まで気づかなかったんだろう。

霧に包まれていたモノが、彼女の言葉によって露わになった気がした。

私、馬鹿みたい
稀一郎さんの事を忘れられなくて…
する気のない結婚式の相談に乗るなんて…
私…滑稽じゃない?

もしそうなら…私は…
私は…身を引くべきなの…
稀一郎さんからの言葉を待たずに、離れるべき?

彼に辛い思いをさせない為にも…
自ら身を引いた方が、私も最小限の傷で…済む?

父に捨てられ、母に忘れられ
私は、人を信じれなくなり、
絶対に、愛さないと思っていたのに…
彼を愛してしまった。

律子さんの時も…
誤解はあったけど、心を痛め
心身ともに疲れ果てた。

今度は…
私と出逢う前だったとしても
相手は、稀一郎さんがプロポーズした相手

人を愛するって
こんなに辛いモノなの…
あと何回…こんな想いすれば良いの

そんなに辛く苦しいモノなら…

「真美さん、今夜付き合ってくれない?」

え?





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