拾ったワンコが王子を連れて来た
お静かに願います
「おはようございます!」
いつもの様にワードローブで制服を受け取り、更衣室へと向かう。
「おはよう! 今日もいい顔してるね?」
以前の様に、待ち伏せして挨拶して来たのは、フロントマネージャーの生田さんだ。
出た…
なんで…?
今朝挨拶したじゃない?
朝食まで作ってくれて、一緒に食べたでしょ?
実は一昨日から、私達は一緒に暮らしている。
彼とは恋人や親族と言った関係ではなく、全くの無関係(上司と部下ではある)の者同士が同じ家に一緒に住んでいるのだ。
だが、他人(ひと)には絶対に知られたくない。特に、一緒に働いている仲間(会社の人間)には知られたくない。
もし、誰かに知られたら…どちらかが職を失う。
どちらかと言うより、間違いなく私の方が職を失うだろう。
何故って…それは、生田さんは仕事の出来る人だからだ。
ゼネラルマネージャーの信頼も厚く、うちの会社(ホテル)になくてはならない存在なのだ。
「おはようございます…」
「今夜どう?」
「お断りします!」
「やっぱりダメか…」と、いつもの様に肩を落として仕事に戻っていく。
なんなのあの人!?
「よっ、おはよう!」
後ろから駆け寄り声を掛けたのは、さっちゃんだった。
「あ、さっちゃんおはよう!」
「生田さん、復活したんだ?」
「え?」
「最近見なかったじゃん?」
確かに…
あの日、突然ウチに押しかけた日から、今みたいに、私を待ち構える様な事はなかった。
「断ってばかりいないで、一度くらい付き合ってあげれば良いのに?」
「イ−ヤでぇす!」
私は誰とも付き合わないし、愛さないって決めてる。
「しかし、あの王子様が、ここまであんたに執着…」
私は、さっちゃんの口を塞いぎ、
「これ以上余計なこと言うと、友達辞めるよ?」と脅す。
さっちゃんは、私の言葉に首を振る。
“ 余計な事は言わない事! ” と更に警告して手を離した。
「でもさ?」と隣で言うさっちゃんに、睨みを効かせると、ごめんと言ってさっちゃんは口を噤んだ。