私を繋ぐ優しい手錠
何処か放っておけなかった。
きっと彼女はこのままいくと破滅する。
いつかの俺と同じように。
そう思っていた。それから、俺は彼女を、来栖さんを目で追うようになった。
そして雨の日、捨て猫に傘を与えている来栖さんを見かけた。猫に対する笑顔は、今までの無表情と違って柔らかかった。そして、気づいたら、目が離せなくなっていた。
そして再び雨の日、俺は身投げする来栖さんを見かけた。
「いいよ、別に。言わせておけばいいじゃん」
そう告げると彼女は目を見張った。
周りの目は、世間の目は自分たちを縛る大きな鎖。自分たちを測る広い標準値。
それからはみ出たらもう誰も振り向かない。
それは寂しいけど、それはそれで楽でいいと、俺は思う。誰かが決めた枠の中で生きていくのは疲れる。誰もが模範となるよう努力するけれど、誰も模範になんてなれない。だれか、反面教師がいないと、成り立たない。
雨が降り出した。
雨に好かれているのかもしれないなぁ。
ふと、そんなことを思う。
来栖さんの笑顔を見た日も、関わるきっかけができた日も、そして泣いている姿を見る日も、雨だから。
「来栖さん、泊りにおいでよ」
後でゆっくり話そう、と涙を掬う。
ゆっくりと頷く彼女は、相当追い込まれていたのか、と考えさせられる。
そしてその日、俺達は教室に戻らなかった。