私を繋ぐ優しい手錠

2



いつの間にか、5時をすぎる。やることは無かったが、リビングに有る本棚の中から面白そうな本を見つけたから読んでいた。読み終わった頃には雨は屋根を叩くような、大粒になっていた。

「夕飯、作るよ」
神代くんは向かいの机でイヤホンをつけて勉強している。
噂で聞いたことがある。風の噂によれば、彼は有名な大学に入るらしい。頭も良くて運動もできる。それに加え、女子ウケのいい整った顔。だけど、こんな格好だから教師からの評価や、信頼は低い。様々な噂を耳にする。他にも、他校の生徒を病院へ送った、女遊びが激しい、など根も葉もない噂。
実際話してみると、案外話しやすいんだな、と。聞き上手なんだな、と。そう思った。
噂だけが全てじゃない。そんなことは分かりきっていたけれど、改めてそう思わされた。

「神代くん…、」
肩を少しだけ叩いてみる。
すると、驚いたかのように顔を上げる。慌ててイヤホンを外しこちらに向き直す。
「ん? 暇だったらなんでも読んでい、」
「夕飯、作るよ。家にあげてくれたお礼に」
「え、」
まるで狐につままれたような顔、とはこのことを言うのだろうか。目を丸くして一時停止をしてしまっている。
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