私を繋ぐ優しい手錠


「ありがとう、神代くん。そこまで気をつかってくれて」
そういった彼女は優しく微笑んだ。
あの日、猫に笑いかけた笑顔よりも控えめだけど、柔らかい笑みだった。

それと同時に何も出来ない自分の無力さを知る。



ピンポーン。


インターホンが鳴る。

「あ、由里だ、きっと」
野菜を切っている手を止めた。

ボタンを連打しているのだろう。ひっきりなしに音が鳴る。これはいつもの事だ。



「あいつ、連打はやめろって言ってんのに」
「すごい押すね…」


玄関へ向かった俺は勢いよく扉を開ける。来栖さんリビングの扉から少し顔を出して覗いていた。

「連打はやめろ!!」
扉を開ければそこには予想通りの人物。
焦げ茶の髪に真面目そうなメガネ。だけど、全然勉強はできない。
「あ、出た。ほい、お前のと来栖さんの」
どうせ、来栖さんと一緒なんだろ?と。
「ははっ、知ってたんだ」
「やっぱ十数年付き合ってると何となくわかるよな」
そう言って勝手に家の中に入っていく。
「あ、ちょっ…。勝手すぎるだろ…」


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