私を繋ぐ優しい手錠
“由里”と呼ばれる人は家に入ってきた。
今ここにいられるのを知られたら神代くんに迷惑がかかるのではないか、そう思い急いで玄関に通じていない方の扉からリビングの隣の部屋へ移る。
そこは、様々な参考書類がならんでいた。
「すごい…」
「すごいよなぁ、あいつ」
急に耳元で声が聞こえた。
不意な出来事に肩が跳ねると、声の主は笑い声を上げた。
焦げ茶の髪にメガネ。
先程玄関にいた“由里”と呼ばれる人だ。
「やっほ、来栖さん」
「なんで…?」
「入ってくのバレバレ、すごい見えてた」
だからってそんな至近距離で話しかけなくてもいい。
「おい、来栖さんになんもしてないよな」
「あ、彼氏くんの登場。まだなんもしてないから心配すんなって」
まだ、って、する気はあったのか。神代くんよりも真面目そうだったのに、彼はそれ以上に問題児っぽい。
「由里、お前の女癖の酷さは俺がよく知ってるから心配なんだけど」
「親友の彼女はとらないから………多分」