一筆恋々
【九月二十二日 手鞠より菜々子への手紙】
こんにちは。
今日おふたりにせがまれてお見せした静寂さんへのお手紙ですが、あれが恋文なのですか?
雨と秋刀魚のことしか書いていませんのに。
気を抜くとあふれる気持ちをそのまま書いてしまいそうになるで、できるだけ毎日の出来事だけを書いているつもりなのです。
それなのに菜々子さんには「直接的な恋文よりうっとうしい」などと言われて、動揺がおさまりません。
静寂さんもそう感じていらしたら恥ずかしいです。
それから、静寂さんは菜々子さんの同席も許してくださると思いますが、くれぐれも余計なことは言わないでくださいね。
お餅を頬張ったまま飲み込まないでいてください。
静寂さんと会えるのはうれしいし楽しみですが、本当はおふたりを会わせたくありません。
おふたりに限ったことではなく、世の中すべての女性に会わせたくありません。
お手紙のことといい戸惑うことばかりです。
大正九年九月二十二日
手鞠
おしゃべり菜々子さま