一筆恋々
【十月十三日 手鞠より静寂への手紙】
謹啓
先日はお付き合いくださり、ありがとうございました。
じかにお礼を伝えられて、駒子さんもほっとしていました。
菜々子さんにつきましては、困らせてしまって申し訳ありません。
ご自分の興味に素直な方なので他意はないのです。
わたしに対して「好みではない」とおっしゃったことは、お手紙を読みましてもよくわかりません。
「枠組み」とはどういう意味ですか?
それでも、静寂さんに悪気があってのお言葉でないということはわかりました。
それから帰り道でのことも、くり返し謝っていただかなくて結構です。
近ごろお手紙を差し上げなかったのは、傷ついたとか怒っていたとかそんなことではなくて、ただ心の整理がつかなかっただけなのです。
わたしは経験のないことでしたので、おどろいて、思わず拒絶するような態度を取ってしまいましたが、決して嫌だったわけではありません。
ほんの少し怖かったのは事実ですが、それもおどろきゆえのことです。
一瞬のことで、また形に残ることでもないのに、心も身体も混乱して、わたしの思うようにならなくなったのです。
静寂さんが謝られるのは、後悔なさっているからでしょうか。
もし軽はずみな気持ちでなさって、後悔されているなら悲しいです。
後悔などしていただきたくないのです。
そういくたびとなく謝るくらいなら、はじめからなさらなければよかったのに
(廃棄)