一筆恋々
前略
これまで沢山手紙を貰っていたのに、滅多に返せず申し訳なかった。
返事が無いというのは心許ないものですね。
それも全て、私のした手荒な振る舞いと言葉の足りなさの所為だと解っています。
本当に申し訳ありませんでした。
英さんも滝口さんも楽しい方で、貴女が言うように魅力の有る女性だとは思いますが、私には貴女の友人という以外何者でも有りません。
また私にとって、貴女は「好み」などという枠組みで考える人では無いのです。
その事を伝えたかっただけなのですが、やはり上手く言葉に出来ず、もどかしさから突然の行動に出てしまいました。
その結果、余計に貴女を傷付け、怒らせてしまいました。
本当に申し訳ない。
二度と強引な事はしないと約束するので、許して欲しい。
どうかまた手紙をください。
大正九年十月九日
久里原静寂
春日井手鞠殿