エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
誤魔化そうとする芝浦に無性に腹が立ち、席を立つ。
お財布から取り出した千円札を二枚カウンターに置くと、「桜井?」と腕を掴まれるからすぐに振り払った。
珍しく戸惑っている瞳を少し見て、口を開いた。
「今、気づいたんだけど。私は芝浦のこと、好きみたい」
整った芝浦の顔に、驚きが広がっていく。
それを見ながら続けた。
「それでも……芝浦がなかったことにしたいって言うなら、ちゃんとそうできたよ。間違ったんだって、ごめんって謝ってくれたら、笑って許した」
笑顔を作ったつもりだった。
でも、意思に反して頬を涙が伝っていた。
「面倒なことにならないようにって、嘘ついたの? 私、芝浦が〝間違ったんだ〟って真面目に話してくれたら、ちゃんと納得したよ」
視界がゆらゆらと揺れる。
「〝覚えてない〟なんて嘘つかなくたって、いいのに」
「桜井……っ」
「ごめん。帰る。ひとりになりたい。追いかけてきたら一生許さない」
もう一度伸びてきた手を再度振り払い、背中を向ける。
必死な顔をした芝浦を見れば、追いかけてくるのは目に見えていたから先手を打った。
お店を出ると扉についたベルが〝カラン〟と明るい音を立てる。
入ってきたときには気にならなかったその音が、今はやけに耳障りに感じた。
外はもう真っ暗で、空には星が浮かんでいるのが見えた。
昼間の熱はそこかしこに残っていて、まとわりつく空気をうっとうしく思いながら、頬に残った涙を手の甲で拭う。