エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「桜井さんってさー、結構猫かぶってるところあるよね。今だって、ちょっと挑戦的だったし。そうやって芝浦さんを騙したんじゃない?」
「いるよね。そうやって女の部分使って取り入る女」
キャハハという笑い声がとても耳障りで、疲れた頭にはつらい。
いつもだったら適当に笑って〝そんなわけないじゃないですか〟なんて流していることだったと思う。
けれど……今はダメだった。たまったものが溢れてしまう。
「私は仕事中なんですけど、おふたりはなんの用事があってここに来たんですか? 私のことが気に入らなくて嫌味を言うためだけに残業つけてるならどうかと思いますけど……もちろん、もう退社扱いになってるんですよね?」
うちの会社は、出社時と退勤時に社員証を通して勤務時間を記録している。
その機械は一階の社員用出入口にあるから、ふたりがまだ退勤扱いになっていないのはわかっている上で聞く。
「勤務時間中に給湯室で話に花咲かせていること、注意を受けたばかりなんですよね? 噂になっているのを聞きました。注意された上で、今またここにいるってことですよね? こんなに話していて大丈夫ですか?」
いつも、今後の人間関係のためにと我慢していたものが次々に口をついてしまう。
疲れた頭では先のことなんか考えられず、もうどうにでもなれと自暴自棄になっていた。
悔しさからか顔を赤くして眉を吊り上げるふたりを見て、やっちゃったなぁ……と思いながら、カップを載せたトレイを持つ。
これ以上、ここにいたくなくて「私、先に失礼しますね」と、給湯室から出ようとしたところで「そういえばさー」と声が追ってきた。
声に不自然な抑揚があることから、怒っていることが伝わってくる。