エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「というか……ここが職場だともっと自覚を持てないものですかね。こんな、質の悪いあたり屋みたいなことして恥ずかしくないですか? 仕事以外がしたいんでしたら、社外でお願いしたいんですが」
白坂くんはあくまでも落ち着いていた。
それでも声には厳しさが含まれていて、それに気づいた横沢さんたちは慌てたように「私たちは、ただ……」となにか言い訳しようとしていたけれど、それを白坂くんが遮る。
「今週末、おじと食事の予定があるので、そのときに今回の件も報告しておきますね」
強引に話を終わらせた白坂くんに、横沢さんたちは青い顔をしていた。
「大丈夫でしたか?」
横沢さんたちが給湯室を去ったあと、白坂くんが聞く。
ハッとして見上げると、わずかに不安そうな瞳が私を見ていた。
「ああ、うん。全然。ありがとね」
泣きそうになっていたことを誤魔化すみたいに笑ってから……それにしても、今のは白坂くんらしくなかったな、と思う。
「白坂くんは今みたいなの、相手するだけ無駄だって判断してスルーするのかと思ってた」
無駄なエネルギーは使わないタイプなだけに、意外に思い言うと、白坂くんは「そうだったはずなんですけどね」と答える。
「なんとなくやられっぱなしは癪だったので」
「……不甲斐なくてごめん」
「いえ。桜井さんはひとつも悪くないですから」
そう言ったあとで、白坂くんが目を伏せる。口元は少し微笑んで見えた。
「社長の甥って立場、今まで結構面倒だと思ってたんですけど、初めて感謝しました。こういうときにはいいカードになりますね」
「最強のカードだと思う。でも……もっと大事に使ってね。こんなつまらないことで使っちゃったらもったいないよ。白坂くんのキャリアに傷がついちゃう」
「でも、桜井さん、泣き出しそうに見えたので」
「仕事してればそういうときもあるよ。でも、立ち直れるし大丈夫だから」
少なくとも、そのカードは白坂くん自身の問題で使うべきだ。
そう思い告げると、彼はそんな私をしばらく見て「前、言いそびれたんですけど」と話し出す。