エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「前?」
「一緒に駅まで帰ったときのことです。途中で桜井さんに電話が入ったとき」
「ああ……うん」
なんだか匂わせぶりなことを言われたのを思い出し、笑顔が少しぎこちなくなる。
でも、直接的なことを言われたわけではないし、変に意識するのも自意識過剰な気がして平静を装っていると、白坂くんが言う。
「俺、桜井さんの声、結構好きなんです」
「……声?」
「はい。明るくてハキハキしてて透明感がある。聞いていると元気になる気がします」
声を褒められたのは初めてだった。
後輩である白坂くんにそんな風に言ってもらえるのは純粋に嬉しくて、お礼を告げようとした。
けれど、ぶつかった視線がそれを止めた。
「桜井さんの沈んだ声なんて聞きたくなかった。だから、今、俺がおじのカードを切ったのは誰のためでもなく自分のためです」
〝後輩〟ではない眼差しを受け、息をのむ。
トレイを台に置いた白坂くんが「桜井さん」と、私に向き合うように立つから一歩たじろぎそうになったとき。
「――悪いけど」
知っている声が割り込んだ。
誰かなんて確認するまでもない。そんなの、締め付けられた胸が知っている。
一週間ぶりに聞いた声に、なんでだか泣きそうになってしまった。
緊張を感じながらゆっくりと入り口に視線を向けると、芝浦も私を見ていた。
なにも言わず私をまっすぐに見つめたあとで、芝浦は白坂くんに視線を移す。