エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「口説こうとしてるなら俺のあとにしろ」

芝浦の言葉がすぐに理解できなくてポカンとしてしまう。
だって、『俺のあとにしろ』なんて、まるで芝浦が先に口説こうとしているみたいに聞こえる。

でも、そんなはずないっていうのも知っているだけに、どういう意味だかがわからない。

「恋愛に先もあともないでしょ」という白坂くんの声が耳を通り抜ける。
ただただ芝浦を見つめていることしかできなかった。

「芝浦さん、結構ナンセンスなこと言いますね。結婚は多少そういう面もあるかもしれませんが、恋愛に関しては……」
「なんでもいい。でも、俺のほうが先だから」

譲らない芝浦に、さすがに少し苛立った様子の白坂くんが言う。

「だから、先とかあととか……」
「桜井を好きになったのは、俺が先だから」

そう、ハッキリと言ったあとで、芝浦が私に視線を移す。

……今、なんて言ったの?

私を好きって……そう言った? 嘘だ。だってそんなはずない。

まっすぐな瞳は、冗談だとか嘘だとか、そういったからかいの言葉を許さず、ただ真面目に私に向けられていた。

突然の告白に、急に訪れた沈黙に、呼吸が震える。
そんな私を、芝浦は黙って見つめていた。

だって、忘れたって嘘をついてまで告白を白紙に戻したじゃない。
態度が優しくなった理由も、急に部屋を訪ねてきた理由も、全部、私の勘違いだったってことなんでしょ……?

なのに……そんな目で見られたって、好きだなんて言われたって困る。なにを信じればいいのかわからなくて、困る。

尚もゆるがない視線に耐えきれなくなり、ぐっと奥歯を噛みうつむく。

それから、ゆっくりと芝浦に近づき、その胸を拳でドンと押すように叩いた。
こんなの、わけがわからない。

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