エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「うわ……すごいね、傘……」
「こっち」
まるでスコールのような雨に打たれながら、芝浦に引っ張られ近くにあるカフェの店先に駆け込む。
避難まではほんの数十秒だと思うのに、びっしょりと形容しても問題ないほどに濡れてしまっていた。
二分も走れば駅構内に入れるけれど、雨脚の強さがそれを躊躇させる。
傘をさしたところで、あまり意味もなさそうだ。
ここ数年でニュースで頻繁に聞くようになった集中豪雨という単語を思い出す。きっと今、ここの雨量は真っ赤だ。
「ん」
こめかみのあたりにハンカチを押し付けられる。
「あ、いいよ。芝浦が使って。私も持ってる……」
言いながら鞄の外ポケットから出したタオルハンカチはぐっしょりと濡れていて、それを見た芝浦が笑う。
「素直に使えって」
「……うん。ありがとう」
黒字にグレイのラインが入ったハンカチを受け取り、おでこや前髪を拭かせてもらう。シャワー後と大差ない濡れ具合に、思わず呆れて笑いそうになった。
幸い、個人情報を取り扱っている仕事なため、持ち帰りの資料はない。スマホは鞄の内ポケットにしまってあるし、長財布もビニール加工がしてあるタイプの生地だからチャックの部分から入り込まなければ問題ないだろう。
芝浦の鞄はファスナー付きだから、中身は大丈夫そうだ。
「それにしてもすごいね……」
「駅が見えないもんな」
あまりに雨脚が強いせいで、コンクリートで跳ね返った雨が霧のようになっていて視界を塞いでいる。
本当ならまだ明るさも多少残っている時間なのに、気味悪い薄暗さがあたりを包んでいた。
私たちと同じようにお店の軒先に避難したひとたちは、驚いたり困ったりした顔でただ空を眺めるしかできないでいる。