エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「ただし、調理中はまたうるさいだろうけど」と付け足して笑うと、芝浦はふっと笑って私の手を取った。

「じゃあ、そうしてもらう」

キュッと繋がれた手に、眉を寄せて芝浦を見る。
まだ十九時台だし、周りに通行人は多い。

「芝浦、会社近くでこれは……」
「別にバレても問題ないだろ。社内恋愛禁止ってわけじゃないし」
「でもさすがに見られたら恥ずかしいでしょ。噂広められたりしたら仕事がしづらくなるだろうし……」

こんなの、芝浦に想いを寄せている女性社員に見られたらまずい。
想像しただけで面倒くさい。

芝浦だって、仕事に響くようなことになったら嫌だろうと思い言ったけれど、意外にも「別に」と返されてしまった。

「まぁ、積極的にバラしたいとは思わないから、社内では普通にするけど。やっと両想いになれたんだから、手だって繋ぎたいし名前でだって呼びたいと思ってる」

からかっているわけではない様子の芝浦に、じっと目を合わせたままで言われる。
遅れてじわじわと顔が熱くなるのを感じ、慌てて芝浦から顔をそむけた。

「……そういうの、困る」

まだ恋人の距離感にも、会話にも慣れていない。
心臓に悪いから困る……という意味で言ったのに、芝浦は「桜井がダメだって言ったところで呼ぶけど」とまるで聞く気がないようだった。

「茉奈」

直後呼ばれ、その甘い声色にドキドキしながら目を伏せる。


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