エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
『嫌な感じですよねー。頭にくるから、私も無視してます。エレベーターに乗ってて、あのひとがこっちに走ってくる姿とか見えると閉ボタン連打しますもん』
沼田さんがいつだったか話していたことを思い出す。
沼田さんがいうように、少しでも相手をするからいけないんだとは分かっていても、さすがに同じ会社の社員相手に〝嫌です〟〝迷惑です〟なんてピシャリと断るのは後々面倒なことになりそうでできないでいる。
今後、異動で同じ部署になる可能性がなくはないだけに、仕事に影響してしまうような大きな亀裂は作りたくない。
しかもこんなくだらないことで。
「えー、少しぐらい話すでしょ? 指導係なんだし」
「仕事の話はしますけど、それ以外はしないんです。部長の目もありますし」
うちの部署は適度な私語はオーケーだ。
でも、どうせ部署内のことなんてわからないだろうからと嘘を混ぜると、横沢さんは不満そうな声を出す。
「えー、じゃあ、仕事終わりとかにでも聞けばいいじゃない」
「白坂くん、あまり友好的な性格ではないので、いつもさっと帰りますし。私も呼び止めてまで話そうとは思わないですから。なので、私を通すわけじゃなくて、本人に聞いたほうが早いですよ」
カップを洗いながらやんわりと断る。
そもそも、最初から引き受けたわけではなく『ちょっと難しいです』と断っている。
何度断れば諦めてくれるんだろう、と飽き飽きしていると、横沢さんは私にも聞こえるような大きなため息をついてから「ほんと、使えない」とぼそりと言った。